老人ホーム入居一時金と贈与税

 相続税法1条の2第1号は、相続税法における扶養義務者の範囲は、配偶者及び民法877条に規定する親族である旨、同法21条の3第1項2号は、扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものの価額は贈与税の課税価格に算入しない旨規定しています。
 そして同号の「通常必要と認められるもの」とは、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいうものと解されています。

 それでは法人ホーム入居一時金は、「通常必要と認められるもの」といえるでしょうか。認められないとすれば、贈与税が課されることになりますので、場合によって、老人ホームへの入居自体断念するケースもあり得るものと思われます。

 これについて、裁決があります(平成22年11月19日)。この事案の配偶者は、高齢かつ要介護状態にあり、被相続人による自宅での介護が困難になったため、介護施設に入居する必要に迫られ本件老人ホームに入居したこと、本件老人ホームに入居するためには、入居金を一時に支払う必要があったこと、本件配偶者は本件入居金を支払うに足るだけの金銭を有していなかったため、本件入居金を支払うに足る金銭を有する被相続人が、本件入居金を本件配偶者に代わって支払ったこと、被相続人にとって、同人が本件入居金を負担して本件老人ホームに本件配偶者を入居させたことは、自宅における介護を伴う生活費の負担に代えるものとして相当であると認められること、また、本件老人ホームは介護の目的を超えた華美な施設とはいえず、むしろ、配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであったという事案でした。

 この事案で、国税不服審判所は、「本件被相続人による本件入居金の負担、すなわち本件被相続人からの贈与と認められる本件入居金に相当する金銭は、本件においては、介護を必要とする本件配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるものであると解するのが相当である。」としました。

 結局のところ、結論の決め手となった要素は、その老人ホームが「介護の目的を超えた華美な施設」かどうかという判断でした。そのような施設でなければ、扶養の選択肢の範囲内ということで、贈与税を課さないことは相当であるように思えます。