地方公共団体が土地を正常価格に比して著しく高額な対価で取得する場合

大洲市が大洲市土地開発公社との間で土地の売買契約を締結し,これに基づき市長が売買代金の支出命令をしたところ,市の住民であるXらが,上記売買契約の締結及び上記支出命令が違法であるなどとして,市の執行機関であるYを相手に,地方自治法242条の2第1項4号に基づく請求を行った(住民訴訟)。この中で、土地の取得価格が問題となった。

本件では、以下のような事情があった。➀本件土地の取得価格がその正常価格の約1.35倍に及んでいること,②上記取得価格は,市が不動産鑑定や近隣の土地の分譲価格等との比較を行わず,本件公社の所有する保留地の簿価に基づいて算定された1㎡当たりの金額に本件土地の面積を乗じて決定したものにとどまること。このことから原審は、市が本件土地の取得のために支出した費用のうち本件土地の正常価格の1.15倍を超える部分は,地方公共団体の財政の適正確保の見地から合理性,妥当性を欠くものであり,これを私法上無効としなければ法の趣旨を没却する結果となる特段の事情は認められないものの,市長の裁量を逸脱,濫用したものとして,地方自治法2条14項や地方財政法4条1項に違反する財務会計行為として違法である旨判断した。

しかし、最判平成28年6月27日集民事253号1頁は,以下の点を踏まえ,これを破棄した。

① そもそも本件隣接地の取得価格は,本件公社による前記保留地の分譲価格や近隣2か所の県基準地の標準価格等を参考にして定められた相応の合理性を有するものであった(したがって,原審も本件隣接地の取得価格が市長の裁量権を逸脱・濫用するものとは認めていない。)ところ,本件隣接地と一体として利用される本件土地の取得価格は,このような本件隣接地の取得価格を下回るだけでなく,これを本件鑑定で示された地価変動率により本件売買契約当時のものに引き直した価格をも下回っていることからすると,その価格自体から特に高額であるとはいえない。

② 本件土地の取得価格と正常価格との格差についても,そもそも正常価格は,個人の主観的事情や特別な事情を捨象した客観的な経済的価値として判定されるものであり,本件土地の正常価格は,前市長が本件土地の取得価格を決定する際の考慮事情となる本件土地を取得する目的や本件売買契約の締結に至る経緯等は考慮せずに算出されたものであること,本件土地の取得価格と正常価格との格差(約1.35倍)も本件隣接地の取得価格と正常価格との格差(約1.27倍)と比較して顕著な相違があるとはいえない。

③ 本件土地の取得価格の決定方法をみても,不動産鑑定等や近隣土地の分譲価格等の比較が行われていない点で,取引の実例価格等を必ずしも考慮していない面があることは否定できない。もっとも,当該取得価格の算定基礎とされた前記保留地の平成19年度期末簿価は,本件土地を含む前記保留地の取得に要した経費等を積算したもので一定の算定根拠を有するものであり,これを基礎として算定された当該取得価格が上記①のとおり本件隣接地の取得価格等を下回るものであったことからすると,前市長が上記簿価に基づいて本件土地の取得価格を決定したことが明らかに合理性を欠くとはいえない。