限定承認をしてはいけない場合

遺産の中に,不動産,有価証券等が含まれていた場合に限定承認を選択すると,相続開始日の時価で譲渡があったとして(みなし譲渡)、被相続人の準確定申告において譲渡所得を申告する必要があります。準確定申告は,相続開始日の翌日から4ヶ月後が申告及び納税の期限となっており,遺産に多額の含み益が存在する(税負担が重い)場合の納税資金をどう手当てするか、また,不動産が被相続人の居住用財産であっても,被相続人から相続人への譲渡となるので3000万円控除などの特例適用が受けられないという問題があります。

一方限定承認のメリットもあります。①相続人が相続した「みなし譲渡」対象の資産について,相続時の時価が相続人にとっての取得費となるため(所得税法60条4項),相続から日を置かずに当該資産を売却すれば,譲渡所得及び税額が発生しない可能性が高いです。②また,「みなし譲渡」に係る譲渡所得税は相続税における債務控除の対象となるため,相続税を軽減できます。

ちなみに、相続人が単純承認した場合,①相続人は被相続人の取得費を引き継いで(所得税法60条1項1号)相続後の譲渡所得が計算され,相続人の譲渡に対しては所得税及び住民税が課されます。②また,相続人の譲渡に対して課される所得税・住民税は,相続税における債務控除の対象になりません。よって,遺産となる不動産を全て売却するような場合は,限定承認によって税負担を軽減できる可能性があります。

もっとも、単純承認の場合は,相続により取得した不動産について,居住してから譲渡すれば3000万円控除の適用があります。一方,限定承認では相続後に所有を継続する資産に対しても「みなし譲渡」により課税されますので、事前に計画が必要です。