教育資金の信託と信託銀行の説明義務

信託がブームとなっています。その信託のひとつに、教育資金管理契約として、信託銀行等告において、受益者の教育資金を管理し、受益者の申出に応じて教育資金を交付し、信託された金銭を受益者のために利殖することを目的とするものがあります。


ところで、直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の制度は、平成25年3月30日号外法律第5号による租税特別措置法の改正により導入された制度であります(平成27年3月31日号外法律第9号による改正前の租税特別措置法70条の2の2、以下同じ)。

上記のような信託は、この租税特別措置法70条の2の2が定める直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の制度に対応する信託商品であり、直系尊属から子、孫等(30歳未満に限る。)への教育資金贈与について、当該信託を利用した場合、子、孫等1人につき1500万円を限度として贈与税が非課税となります。

すなわち、直系尊属が平成25年4月1日から平成27年12月末日までに信託銀行等の金融機関に拠出した資金のうち受益者(子、孫等)が教育資金目的に利用した額(上限1500万円)が非課税となり、また、受益者の30歳の誕生日の前日等に信託は終了し、教育資金の目的以外での支出額及び信託財産の残額については贈与税が課税されます。非課税制度の取扱いは1人の子、孫等につき1金融機関(1店舗)に限定されます。

租税特別措置法70条の2の2に定める直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の適用を受けるためには、信託がされる日までに、受益者が受託者である取扱金融機関の営業所等に対して、教育資金非課税申告書を提出しなくてはなりません。その申告書の提出が先行しなければ、当該非課税措置の適用を受けられない立て付けとなっております。

このような制度説明と手続きを説明するのは信託銀行等の役割ですが、上記で述べた制度の構造上、信託契約に係る信託銀行の業務フローにおいては、通常、委託者から贈与資金を受け取っても、教育資金非課税申告書を含む受益者からの必要書類の提出がされるまでは、委託者名義の普通預金口座に入金しておき、必要書類が提出された段階で、受益者名義の教育資金贈与信託口座に移動させることと定められており、信託銀行においては、この資金移動の段階で信託契約が成立するものと解されています。

よって、前記必要書類が提出される前に委託者が死亡した場合には、同人を委託者とする教育資金信託契約が成立する余地はないといえます(東京高判平成30年2月14日)。

もっとも、受益者の教育資金非課税申告書を含む必要書類が提出されないと非課税措置の適用を受けることができないこと、それら必要書類の提出がされるまで信託契約の受託ができないことについては、信託銀行等が説明する必要があるものと思われますので、これを怠った場合には債務不履行責任を負うものと解されます。